Pタイルだけじゃない床のアスベスト|長尺シートや接着剤に潜む危険と注意点

前回のコラムで、古いPタイルにアスベストが含まれている危険性について解説しました。しかし、床に潜むアスベストのリスクは、残念ながらPタイルだけにとどまりません。
一見するとアスベストとは無縁に見える他のビニル系床材や、さらに見落とされがちな「床材を貼り付けている接着剤」にも、危険が潜んでいるのです。
特に、床材を剥がした後に残る黒いネバネバとした接着剤。これを安易に削り取ろうとする行為は、アスベスト粉じんを大量に飛散させる、極めて危険な行為になりかねません。
この記事では、アスベスト分析の専門家として、
- Pタイル以外のビニル系床材(長尺シートなど)のアスベスト含有リスク
- 床材本体よりも危険な場合がある「接着剤」の見分け方と注意点
- なぜDIYでの床の撤去が絶対にNGなのか、その科学的な理由
について、専門家の視点から深掘りして解説していきます。
目次
Pタイルだけじゃない!注意すべきアスベスト含有床材
Pタイル以外にも、アスベストが使用されている可能性のあるビニル系床材が存在します。主に、シート状で供給される床材の「裏打ち材」として使用されていました。
1. 長尺シート(塩ビシート)
店舗や病院の廊下、商業施設などで広く使われる、ロール状で供給されるシート状の床材です。耐久性や耐水性に優れています。古い製品の中には、シートの裏側に貼られている「裏打ち紙」にアスベストを含んでいるものがありました。
2. クッションフロア
住宅のキッチンや洗面所などでよく使われる、クッション性のあるシート状の床材です。長尺シートと同様に、古い製品では裏打ち材としてアスベストを含有する紙が使われていることがありました。
これらのシート系床材は、通常の使用ではアスベストが飛散するリスクは低いと考えられています。しかし、リフォームなどで剥がす際に裏打ち紙が破れたり、下地にこびりついて残ったりすると、そこからアスベストが飛散する危険性があります。
最大の盲点!床材用「接着剤」に潜むアスベスト

床材のアスベスト対策において、最も見落とされやすく、かつ危険性が高いのが「接着剤」です。
床材本体にアスベストが含まれていなくても、それを貼り付けている接着剤にアスベストが混入されているケースは決して珍しくありません。
なぜ接着剤にアスベストが使われたのか?
床材用の接着剤にアスベストが使用された主な理由は、以下の通りです。
- 補強・増量のため: 接着剤の強度を高め、また、材料費を抑えるための増量材(フィラー)として。
- 凹凸充填のため: 下地のコンクリートなどの凹凸を埋め、平滑な接着面を作るため。
特に注意すべき「黒い接着剤(ブラックマスチック)」
アスベスト含有接着剤の中でも特に有名なのが、アスファルトを主成分とする黒色の接着剤で、「ブラックマスチック」とも呼ばれます。1960年代から1980年代にかけて、Pタイルやビニル系床材の接着に広く使用されました。
床材を剥がした後に、黒くネバネバとしたものが碁盤の目状に残っていたら、それはブラックマスチックである可能性が非常に高いと言えます。
なぜ「接着剤のアスベスト」が特に危険なのか?
アスベスト含有接着剤は、Pタイルなどと同じアスベストレベル3に分類されます。しかし、その除去方法はPタイル本体の除去よりも慎重さが求められます。なぜなら、飛散性が格段に高くなる可能性があるからです。
Pタイル自体は、割らないように丁寧に剥がせば、飛散をある程度抑えることが可能です。
しかし、床材を剥がした後に残った接着剤はどうでしょうか。次の床材をきれいに貼るためには、下地にこびりついた接着剤をきれいに除去し、平滑にする必要があります。その際に行われる作業が、
- 電動工具(サンダーなど)で削り取る(研磨)
- スクレーパーなどで削ぎ落とす
といった行為です。
この「削る」という作業は、接着剤に含まれるアスベスト繊維を微細な粉じんとして大量に空気中へまき散らすことになります。これは、レベル3建材の扱いの中で最も飛散リスクが高い作業の一つであり、極めて危険です。
自分で床を剥がすのが絶対にNGな理由
床材のリフォームをDIYで行うことの危険性は、まさにこの「接着剤」のリスクに集約されます。
- 床材本体と接着剤、両方のアスベスト有無を判断できない: 見た目だけでアスベストの有無を判断することは不可能です。
- 接着剤の除去が最も危険な工程であることを知らない: 知識がないまま電動工具で接着剤を削り取れば、高濃度のアスベスト粉じんを吸い込み、室内全体を汚染してしまいます。
- 廃棄物の処理ができない: 除去した床材や接着剤のくずは、法律に基づいた適正な処分が必要です。
安全な床リフォームは、専門家による「床材本体」と「接着剤」、両方に対するアスベスト事前調査から始まります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 既存の床材の上から新しい床材を重ねて貼る「重ね貼り(カバー工法)」なら安全ですか?
A1. 既存の床材を除去しないため、アスベストの飛散リスクを大幅に低減できる有効な方法の一つです。ただし、将来的に建物を解体する際には、結局アスベストの除去が必要になることは忘れてはなりません。また、下地が劣化している場合は施工できないこともあります。
Q2. 接着剤の色が黒くなければアスベストは入っていませんか?
A2. いいえ、そうとは限りません。黒いブラックマスチックが有名ですが、それ以外の色(灰色、茶色など)の接着剤にもアスベストが使用されていた例はあります。色だけで判断するのは危険です。
Q3. 接着剤の調査はどのように行うのですか?
A3. アスベスト事前調査の際に、有資格者が床材の一部を接着剤層ごと採取します。そして、私たちのような分析機関が、層別分析という手法を用いて、床材の層と接着剤の層を別々に分析し、それぞれのアスベストの有無を特定します。
まとめ:床のリフォームは「本体」と「接着剤」のダブルチェックを
Pタイルだけでなく、様々な床材とその接着剤に潜むアスベストのリスクについて、ご理解いただけたでしょうか。
- まとめのポイント1:床のアスベストはPタイルだけでなく、長尺シートやクッションフロアの「裏打ち材」にも注意が必要です。
- まとめのポイント2:最大の盲点は床材を貼るための「接着剤」です。特に、床を剥がした後に残る黒い接着剤はアスベスト含有の可能性が高いです。
- まとめのポイント3:接着剤を削り取る作業は、アスベストを大量に飛散させる極めて危険な行為です。DIYでの床の撤去は絶対におやめください。
床のリフォームを計画する際は、床材の「本体」と「接着剤」の両方が調査対象であることを必ず覚えておいてください。そして、その調査と判断は、必ず専門家に依頼することが、あなたと家族の健康を守るための唯一確実な方法です。
アスベストの定性分析が必要な時は、当社にご相談ください。
お客様の状況に合わせた最適なご提案をさせていただきます。


