アスベストが引き起こす病気の種類|中皮腫・肺がん・石綿肺の三大疾患とリスクを専門家が解説

前回のコラムでは、アスベストが「見えない針」のように体内に侵入し、数十年かけて健康を蝕むメカニズムについて解説しました。では、その「時限爆弾」が引き起こす病気には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
アスベストが原因で発症する病気は、一つではありません。それぞれに特徴があり、症状や進行の仕方も異なります。これらの病名を正しく知ることは、ご自身やご家族の健康状態を気にかける上で、また、過去の労働環境や住環境のリスクを評価する上で非常に重要です。
この記事では、アスベスト分析の専門機関である私たちが、アスベストばく露によって引き起こされる代表的な3つの病気「悪性中皮腫」「肺がん」「石綿肺」、そしてその他の関連疾患について、それぞれの特徴とリスクを詳しく解説していきます。
この記事でわかること
- アスベストが引き起こす代表的な病気の種類と特徴がわかる
- 各疾患の主な初期症状と潜伏期間がわかる
- アスベストと喫煙の危険な関係性がわかる
- 健康に不安を感じたときに取るべき行動がわかる
アスベストによる健康被害は、決して他人事ではありません。正しい知識を身につけ、ご自身の健康を守るための一助としてください。
目次
アスベストが引き起こす三大疾患
アスベストばく露によって発症する病気の中でも、特に代表的なものが以下の3つです。これらは「三大石綿関連疾患」とも呼ばれています。
- 悪性中皮腫(あくせいちゅうひしゅ)
- 肺がん
- 石綿肺(いしわたはい/せきめんはい)
これら3つの病気は、いずれも肺やその周辺組織に深刻なダメージを与える点で共通していますが、発生する場所や病気の性質(がんか、非がんか)に違いがあります。一つずつ詳しく見ていきましょう。
1. 悪性中皮腫:アスベストばく露との関連が極めて強い「がん」
悪性中皮腫は、アスベスト関連疾患の中で最も象徴的な病気と言えます。
悪性中皮腫とは?
肺を覆う「胸膜(きょうまく)」、心臓を覆う「心膜(しんまく)」、腹部の臓器を覆う「腹膜(ふくまく)」といった、体の内臓を覆う薄い膜(中皮)に発生する悪性の腫瘍(がん)です。ほとんどのケース(約80%)は胸膜に発生します。
特徴とリスク
最大の特徴は、患者の約8割以上がアスベストばく露歴を持つとされ、アスベストとの因果関係が極めて明確である点です。喫煙との直接的な関連性は低いとされており、まさに「アスベストが引き起こすがん」と言えます。非常に稀な疾患でありながら、治療が困難ながんの一つとして知られています。
- 潜伏期間: 20年~50年と非常に長い
- 主な症状:
- 胸の痛み(特に片側)
- 息切れ、呼吸困難
- 原因不明の咳
- 胸水(胸に水がたまることによる圧迫感)
- 腹部に発生した場合は、腹痛、腹部膨満感、食欲不振など
2. 肺がん:喫煙との相乗効果でリスクが激増

肺がんは、日本人のがん死亡原因の第1位ですが、アスベストばく露もその確実な原因の一つです。
アスベストによる肺がんとは?
アスベスト繊維によって肺の組織(肺胞や気管支)の細胞ががん化したものです。アスベストばく露がなくても発症するため、アスベストが原因であることを医学的に特定するには、石綿肺の所見があるか、一定以上のばく露歴があったかなどを総合的に判断する必要があります。
特徴とリスク
最も注意すべきは、喫煙との相乗効果です。アスベストにばく露していない喫煙者の肺がんリスクを1とすると、非喫煙のアスベストばく露者のリスクは約5倍になります。しかし、喫煙者がアスベストにばく露した場合、そのリスクは50倍以上に跳ね上がると報告されています。これは、互いの発がん作用を著しく増強しあうためです。
- 潜伏期間: 15年~40年
- 主な症状:
- 長引く咳
- 血痰(痰に血が混じる)
- 胸の痛み
- 動悸、息切れ
- 声のかすれ
これらの症状は、一般的な肺がんと区別がつきません。過去にアスベストを扱う環境にいた喫煙者の方は、特に注意が必要です。
3. 石綿肺(アスベスト肺):肺が硬くなる「じん肺」の一種
石綿肺は、がんではありませんが、進行性で根本的な治療法がない病気です。
石綿肺とは?
長期間にわたって高濃度のアスベストを吸い続けた結果、肺が線維化(硬く、縮んでしまう)する病気で、「じん肺」の一種に分類されます。肺が硬くなることで、呼吸機能が著しく低下します。
特徴とリスク
アスベストのばく露量が多いほど発症しやすく、進行も早い傾向があります。過去にアスベスト製造工場や造船所などで働いていた方に多く見られます。石綿肺と診断されると、肺がんや悪性中皮腫を合併するリスクも高まります。
- 潜伏期間: 15年~20年
- 主な症状:
- 体を動かしたときの息切れ(労作時呼吸困難)
- 痰を伴わない乾いた咳(乾性咳嗽)
- 進行すると、指先が太鼓のばちのように丸くなる「ばち指」が見られることもあります。
その他のアスベスト関連疾患
上記の三大疾患以外にも、アスベストが原因で起こる病気があります。
- びまん性胸膜肥厚(ひこう)
肺を覆う胸膜が、広範囲にわたって厚く硬くなる病気です。これが進行すると、肺の膨らみが妨げられ、呼吸が苦しくなります。 - 良性石綿胸水
アスベストばく露によって、胸膜に炎症が起こり、胸水(水)がたまる病気です。胸の痛みや発熱を伴うことがあります。がんではありませんが、将来的に悪性中皮腫を発症するリスクがあるとされています。
よくある質問(FAQ)
Q1. アスベスト関連の病気は遺伝しますか?
A1. いいえ、アスベスト関連疾患は遺伝しません。あくまでアスベスト繊維を吸い込んだ本人に発症する病気です。ただし、作業着に付着したアスベストを家族が吸い込む「家庭内ばく露」による発症例も報告されています。
Q2. 健康診断で異常を指摘されました。どうすれば良いですか?
A2. まずは呼吸器内科などの専門医を受診してください。その際、医師に「過去にアスベストを扱う仕事や環境にいた可能性がある」ことを必ず伝えてください。職歴や居住歴は、正確な診断のための重要な情報となります。
Q3. 治療法や補償制度はありますか?
A3. 各疾患に対して、手術、放射線治療、薬物療法などの治療法がありますが、早期発見が非常に重要です。また、仕事が原因で発症した場合は「労災保険」、それ以外の場合は「石綿健康被害救済制度」といった公的な補償制度があります。
まとめ:正しい知識で早期発見・早期相談を
今回は、アスベストが引き起こす具体的な病気について解説しました。
- まとめのポイント1:代表的な疾患は「悪性中皮腫」「肺がん」「石綿肺」の3つ。特に悪性中皮腫は、アスベストとの関連が極めて強い病気です。
- まとめのポイント2:どの病気も、発症までに15年以上の非常に長い潜伏期間があります。過去のばく露歴から目をそらさず、健康状態に注意を払うことが重要です。
- まとめのポイント3:息切れ、長引く咳、胸の痛みなど、気になる症状があれば、決して放置せずに専門医を受診してください。その際は、アスベストばく露の可能性を伝えることが大切です。
アスベストによる健康被害を根絶するための最も確実な方法は、未来のばく露を防ぐことです。そのためには、建物の解体・改修工事の前に、専門家によるアスベスト事前調査と、必要に応じたアスベスト分析を徹底し、アスベストの有無を正確に把握することが不可欠です。
私たちHAKUTOアスベスト分析センターは、科学的根拠に基づいた分析を通じて、皆様の健康と安全な環境づくりに貢献してまいります。
アスベストの定性分析が必要な時は、当社にご相談ください。
お客様の状況に合わせた最適なご提案をさせていただきます。


