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2025.08.12

アスベスト対策の基本|適切な保護具(マスク・防護服)の選び方

「古い家の壁を自分で壊したいけど、どんなマスクをすればいい?」
「アスベスト作業用の防護服って、普通の作業着と何が違うの?」

アスベスト含有の可能性がある建材を扱う際、あなたの健康を守る最後の砦となるのが「保護具」です。しかし、薬局で売っているような一般的な不織布マスクや、ただの作業着では、目に見えないアスベストの脅威から身を守ることはできません。

間違った保護具の選択は、知らず知らずのうちに、最も危険な「アスベストの吸入ばく露」を引き起こす原因となります。

この記事では、アスベスト分析の専門家として、安全な作業に不可欠な保護具、特に呼吸用保護具(マスク)と防護服について、以下の点を徹底的に解説します。

  • なぜ専用の保護具が絶対に必要なのか?
  • マスクの性能(DS2/RL3など)の正しい見方
  • アスベストの作業レベルに応じた最適な保護具の選び方
  • 保護具の正しい着脱方法と処分

正しい知識を身につけ、ご自身と周囲の人々の安全を確実に守りましょう。

なぜ専用の保護具が絶対に必要なのか?

アスベスト対策で保護具が重要視される理由は、アスベスト繊維の「見えない危険性」にあります。

アスベストの繊維は、直径が髪の毛の5000分の1程度と極めて細かく、軽いため、一度飛散すると長時間、空気中を浮遊します。そして、呼吸とともに肺の奥深くまで入り込み、数十年という長い年月を経て、肺がんや中皮腫といった深刻な病気の原因となるのです。

一般的なマスクのフィルターでは、この微細な繊維を通過させてしまいます。だからこそ、アスベストの粉じんを確実に捕集できる、国が定めた規格をクリアした「防じんマスク」が絶対に必要なのです。これは単なる推奨ではなく、事業者が労働者に作業させる場合には、石綿障害予防規則(石綿則)で厳しく定められた法的義務でもあります。

【最重要】呼吸用保護具(防じんマスク)の選び方

アスベスト対策の心臓部とも言える、マスクの選び方を解説します。

基本原則「使い捨て式防じんマスク」を選ぶ

アスベスト作業では、使用後に汚染されたフィルターごと廃棄できる「使い捨て式」の防じんマスクが基本となります。フィルター部分だけを交換する「取替え式」もありますが、管理が煩雑になるため、専門家以外には使い捨て式が推奨されます。

性能の区分DS2/RL2以上が最低条件

日本の国家検定に合格した防じんマスクには、その性能を示す「型式」が必ず記載されています。

  • DS1, DS2, DS3: 固体粒子(アスベストなど)用の使い捨て式マスク。数字が大きいほど高性能。
  • RL1, RL2, RL3: 固体・液体粒子用の取替え式マスク。同様に数字が大きいほど高性能。

このうち、アスベスト作業で許容されるのは、粒子捕集効率が95%以上の「DS2」または「RL2」以上のクラスです。DS1やRL1は性能が不十分なため、絶対に使用しないでください。

作業レベル別最適なマスクの選択

アスベスト作業は、発じん性(粉じんの飛散しやすさ)に応じて3つのレベルに分けられており、レベルごとに求められるマスクの性能も異なります。

  • レベル3(非飛散性): スレート屋根やPタイルなど、固く安定した建材の除去作業。
    DS2/RL2以上の防じんマスクで対応可能です。
  • レベル2(中程度の飛散性): 保温材や断熱材など、少し脆い建材の除去作業。
    → より高性能なDS3/RL3の防じんマスクが推奨されます。
  • レベル1(著しく飛散性が高い): 吹付けアスベストの除去など、最も危険な作業。
    電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)送気マスクといった、より高度な保護具の使用が法律で義務付けられています。このレベルの作業は、専門の登録業者以外は絶対に行ってはいけません。

最重要正しい装着とフィットテスト

どんなに高性能なマスクでも、顔との間に隙間があれば意味がありません。毎回、鼻や顎にしっかりフィットさせ、息を吸ったり吐いたりして空気漏れがないかを確認する「フィットテスト」を必ず行ってください。髭は空気漏れの原因になるため、きれいに剃る必要があります。

防護服・その他保護具の選び方

防護服JIS規格適合品を選ぶ

アスベストの粉じんは、皮膚に付着し、そこから二次的に飛散するリスクがあります。そのため、粉じんが内部に侵入しないよう、フード付きのつなぎ服タイプの防護服を着用します。JIS T 8115(化学防護服)に適合した製品を選びましょう。レベル1、2の作業では非通気性のものを、レベル3では通気性のあるものでも使用可能です。

その他保護メガネ、手袋、履物

  • 保護メガネ: 粉じんが目に入るのを防ぐため、顔に密着するゴーグルタイプが必須です。
  • 手袋: 破れにくいゴム製などの手袋を使用し、使い捨てにします。
  • 履物: 付着した粉じんを洗い流しやすいゴム製の長靴や安全靴を使用し、靴の上からさらに使い捨てのシューズカバーを履くとより安全です。

保護具の正しい脱ぎ方と処分方法

作業後の保護具には、目に見えないアスベストが付着しています。汚染を広げないためには、正しい手順で脱ぐことが極めて重要です。

  1. 作業場所から出る前に、霧吹きなどで防護服の表面を湿らせ、粉じんの飛散を抑える。
  2. シューズカバーを脱ぎ、外側の手袋を脱ぐ。
  3. フードをかぶったまま、防護服を内側が表になるように裏返しながら脱ぐ。
  4. 保護メガネを外す。
  5. 最後に、呼吸用保護具(マスク)を外す。
  6. 脱いだ保護具はすべて、あらかじめ用意した丈夫なビニール袋に入れ、空気を抜いて密封し、「アスベスト廃棄物」と明記して、法に基づき適正に処分する。

安全な対策は、正しい保護具の知識から

アスベスト対策の基本は、何よりもまず「吸わない」ことです。そのためには、適切な保護具の選定と使用が不可欠です。

  • マスクは国家検定に合格した「DS2」以上を必ず選ぶ。
  • 作業の危険度(レベル)に応じて、マスクや防護服のグレードを上げる。
  • 顔にしっかりフィットさせ、正しく装着しなければ効果はない。
  • 脱ぐ時が最も危険。手順を守り、汚染を広げないように処分する。

そして、これらの対策を行う大前提は、扱う建材にアスベストが含まれているかどうかを「知る」ことです。不確かなまま作業を始めるのは最も危険です。まずは専門家による分析調査でリスクを確定させ、万全の準備で臨みましょう。

アスベストの定性分析が必要な時は、当社にご相談ください。
お客様の状況に合わせた最適なご提案をさせていただきます。

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